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25%削減は科学の要請か[前編]


ここから引用:
しかし、齋藤委員はこれに納得せず、衆議院環境委員会での参考人質疑などを持ち出して、科学の要請ではないにもかかわらず、そのように言うのは、国民をだましていることになるのではないかと問いかけた(ちなみに、筆者は参考人陳述のなかで、2℃目標を含む各種の政治的目標のすべてが科学の要請ではないと説明している)。

ここから引用:
コラム
山口光恒の『地球温暖化 日本の戦略』
25%削減は科学の要請か[前編]
科学の要請との前提で進む国会の温暖化対策議論
http://premium.nikkeibp.co.jp/em/column/yamaguchi/79/index.shtml
科学の要請ではない「25%削減目標」

 現在、国会において、政府提出の「地球温暖化対策基本法案」の審議が行われている。法案には、条件付きながら中期目標として「2020年に1990年比25%削減」、長期目標として「2050年に80%削減」(こちらは条件なし)がうたわれている。中期目標は主要国のなかで突出して高いが、前提条件が満たされない限り、法的には存在しないとされている点がこの法案の特徴である。

 法案の国会審議を通して、いくつか重要な点が明らかになった。最も重要な点は、鳩山由紀夫前首相が、米国が入らないままでの京都議定書の単純延長は、「まったくもって受け容れられない話である」と明言した点である(本年5月11日の衆議院環境委員会における自由民主党齋藤健議員の質問に対する答弁)。

 法案審議の参考として、小沢鋭仁環境大臣から「地球温暖化対策に係る中長期ロ-ドマップの提案」(以下、小沢試案)が提示された。この試案に関しては、経済・国民生活・雇用への影響、国際競争力への影響などが主要な論点であったが、試案のなかで25%削減が「科学が求める水準」であるとされていた点についてもたびたび論議が交わされた。この点は、温暖化対策の根幹を左右する基本的な問題である。

 たまたま筆者は、4月27日の衆議院環境委員会に参考人として意見陳述の機会が与えられたので、温暖化対策と科学の要請、工業化以後の気温上昇を2℃以内に抑えるとのいわゆる「2℃目標」に対する国際合意の有無、そして、小沢試案を中心とした日本の対応の 3点に絞って意見を述べた。

 本稿では、まずこのうちの最初の論点、すなわち「日本の25%削減目標が科学の要請かどうか」について明らかにする。このことが、今後の実りある議論に向けての専門家の役割だと考えるからである。

 科学の要請かどうかを問う中味は次の3点である。結論から先に言うと、これらはいずれも科学の要請ではない。

1. 工業化以後の気温上昇を2℃以内に抑えるべしとの主張(いわゆる2℃目標)
2. その場合の先進国の削減目標は25~40%であるとの主張
3. その場合、日本の削減目標は最低でも25%であるとの主張

 読者のなかには、科学の要請かどうかに、なぜ筆者がこだわるかについて、不思議に思う方がいるかもしれない。しかし、これは議論の根本を成す問題なのである。仮に、本当に科学が要請したのであれば、世界は万難を排してその目標を達成しなければならない。そうでないのであれば、対策の費用と効果を比較考量の上、政治的判断を下す、ここに大きな違いがある。こうした観点から、本欄でも数回にわたってこの点を取り上げてきたのである(「 『2℃目標』と新聞報道 」「 日本の『25%削減目標』を考える 」「 科学とIPCC 」など)。なお、筆者が衆議院環境委員会の当日に配布した資料は、 筆者のホームページ から参照可能である。



ここから引用:

科学の要請を巡る国会の質疑

 始めに、衆議院予算委員会、同環境委員会における政府答弁を振り返っておく。いずれも質問者は自民党の齋藤健議員である。

 鳩山前首相は、日本の中期目標の根拠につき次の通り答弁している(2009年11月4日の衆議院予算委員会議事録より。下線およびカッコ内は筆者)。


 ご案内の通り、IPCCの第3次、第4次の評価報告書というものがその間に出て参ったわけでございまして……平均の気温の上昇を(工業化以前に比べて)2℃以下に抑えるためには、450ppmに二酸化炭素(等価)濃度を抑えなければならないと。そのことを達成させるためには、(先進国は)2050年には 80%、あるいはその前倒しにして2020年において最低でも25%削減しなければならない。これを科学的な知見ということで、いろんな科学的な知見があることを私も存じ上げているところでありますが、その中で厳しい一つの有力な知見というものに基づいて、私どもとしてもこれを達成させることが日本としての大きな役割ではないか、そして日本がこのことを提唱することによって他の国々にもよい影響を与えるのではないか……



 以上のことから、首相が言っている科学的知見とはIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報告書であること 、IPCCの知見にもいろいろとあること、しかし首相はこのなかで最も厳しい(気温上昇を工業化以前に比べて2℃以内にとどめるとの)知見を(政治家としての決断で)採用したこと、その結果、先進国である日本は2020年に1990年比25%削減する必要がある、ということを述べている。5月11日の衆議院環境委員会でも同趣旨が繰り返されているが、このときには、「90年比25%を2020年までに削減するという判断をある意味では政治的に採用させていただいたと言うことでございまして……」と(日本の25%削減が科学の要請ではなく)政治的判断だという点を明確にしている。

 それでは、なぜ工業化以前に比べた気温上昇を2℃以下に抑えなければならないかを問う必要があるが、この点は次のテーマとしてこのシリーズで扱うこととし、今回は「科学の要請かどうか」という問題に絞る。

 次に、岡田克也外務大臣の発言である。同じ11月4日の衆議院予算委員会で同大臣は、日本の25%削減目標について次の通り発言した(2009年11月4日の衆議院予算委員会議事録より)。


 基本的な認識が委員とは違うんだと思います。我々は 2050年において全世界で50%削減しないと、次の世代に対して責任を果たしたことにならない。そういう国際社会において、そういう最低限の認識のもとに、そうであれば2020年の段階でどれだけの削減が必要かと。ある意味ではそういった目標値をまず置いて、その中で精一杯努力していく。真水でどこまでできるか、できなければそれは外から買ってくることも必要かもしれませんが、その枠の中でなるべく真水で努力していくということを言っているわけです。



 この発言から外務大臣は、「2050年において全世界で50%削減しないと、次の世代に対して責任を果たしたことにならない」と考えていることが分かる。ただし、その根拠が科学が求めるものかどうかは明らかではない。また、「次世代に対する責任を果たす」というのはいかにも抽象的である。



ここから引用:

小沢環境大臣の発言のロジック

 次に、担当である小沢環境大臣であるが、小沢試案では「25%削減が科学が求める水準」と言い切っている点は既述の通りである。これを反映して、4月23日の衆議院環境委員会の質疑でも科学の要請と明言している。


齋藤(健)委員
 日本の25%中期目標が科学の要請あるいは科学が求める水準であるとおっしゃるのはいかなる根拠に基づいているのか。

小沢国務大臣
 IPCC第四次報告書の分析結果によりますと、2℃に気温上昇をとどめるためには、温室効果ガス濃度を445から490ppmとする必要があり、そのためには、附属書I締約国全体の排出量は 2020年に25%から40%削減する必要があることが示されています。その数字を根拠にいたしております。

齋藤(健)委員
 それは科学が要請をしていますか。これをしなくてはいけないという要請になっておりますか。

小沢国務大臣
 必要があるということを言っているわけでありますから、そういった意味では、受けとめる我々としては、科学の要請しているところ、科学が示すところ、こういう表現は十分値すると思います。



 ここでは議論がすり替わっている。ここで、環境大臣が科学の要請としている内容は先進国の削減割合であり、その前提となる2℃以内に気温上昇を抑えるのが科学の要請かどうかは答えていない。

 国会審議の記録を事後的に検証してみると、小沢大臣は工業化以後の気温上昇を2℃以下に抑えるのは当然との前提に立ち、その上で先進国、あるいは日本が25%削減することが科学的要請と考えているようである。こう考えると、小沢大臣の答弁はある意味では筋が通っている。実は、本当の問題は、2℃目標が科学の要請かどうかであるが、この点は今国会では明確な論議はなかった。しかし後述の通り、これは科学の要請ではない。

 5月14日衆議院環境委員会(強行採決当日)で、小沢大臣は再び科学の要請の中身を説明した。


小沢国務大臣
 25%は、科学が要請した25%から40%ということの中の、しかし日本は最もエネルギー効率が高い国でありますから、その25から40%の最低の数字でございます。



 ここで25~40%というのは、後述するとおり一定の濃度で安定化する場合に先進国が2020年までに必要とする(need to reduce)削減割合のことである。しかし、齋藤委員はこれに納得せず、衆議院環境委員会での参考人質疑などを持ち出して、科学の要請ではないにもかかわらず、そのように言うのは、国民をだましていることになるのではないかと問いかけた(ちなみに、筆者は参考人陳述のなかで、2℃目標を含む各種の政治的目標のすべてが科学の要請ではないと説明している)。



ここから引用:

首相と環境大臣の異なる認識

 これに対する小沢大臣の次の答弁は、そのロジックを探る上で一つのヒントを与えるものである。


小沢国務大臣
 いわゆる2℃以内におさめるという長期目標は、御党もそれは採用している数字ですよね。これはIPCCの数字ですよね。そして、前政権のもとで、これはサミットでも決めた話ではないんですか。



 つまり、2℃という目標が所与であって、その場合には、IPCC報告書では先進国が25~40%削減の必要がある(need to reduce)と書いている。従って、科学の要請だとの答弁ではないかと思う。

 筆者が問題にしているのは、2℃目標が科学の要請でない上に、サミット(主要国首脳会議)でも決まっていない(この点は先般のコペンハーゲンで開催されたCOP15でも同様)という点であるが、ここではラクイラサミット(2009年)における2℃目標問題につき簡潔に触れておく。

 同サミットの宣言65項では、「我々は2℃を超えるべきではない(ought not to exceed 2℃)との広範な科学的知見を認識する」とあるが、前後関係から、ここでいう科学的知見とはIPCC報告書を指している。サミットで2℃目標を決めたことはない(認識しただけ)ので、決めたというのは小沢大臣の思い違いであるが、IPCC報告書のどこを読んでも2℃を超えるべきでないとは言っていないにもかかわらず、世界のリーダー(日本は麻生太郎元首相)も、IPCC報告書を読み違っているのは極めて残念な次第である。これは、独自に2℃目標を掲げてこれを世界の合意にしたいEU(欧州連合)の首脳に、日・米・加の首脳が(宣言の持つ意味に気付くことなく)押し切られた結果であると思う。

 もう1点大切なことは、IPCCのパチャウリ議長が、あたかもIPCCが2℃を要請しているかのごとき物言いをし、マスコミがこれをIPCCの要請として報道したこともあると思う。この意味で、パチャウリ議長の責任は重大である(この具体的な実例については本欄「 科学とIPCC 」参照)。

 本来、ここでIPCCが2℃を要請しているかの確認があればさらに明確になったが、齋藤委員は大臣の答弁に対し、25~40%削減はいくつかのシナリオ(濃度)のうちの1つ(の濃度)の達成に必要という意味であるとコメントした上で、次に質問の角度を変え、IPCCが「日本」へ25%削減することを要請しているかの確認を求めた。これに対して小沢大臣は、次の通りいったんは(科学の要請ではなく)政治の責任でそれを受け入れたと答えたが、すぐその後に、再び科学の要請を繰り返している(下線筆者)。


小沢国務大臣
 新しい内閣の政治的責任として、まさにそれを受け入れました。(齋藤委員の更なる質問に答えて)……科学の要請を受け入れて、そして鳩山内閣として勇気を持ってこれを決めたんです。



 こうしたやりとりを経て、小沢大臣の最後の発言は次の通りである(カッコは筆者)。


小沢国務大臣
 日本に対する要求ではなかったではないか、こう言っておりますが、ニード・ツー・リデュース・ゼア・エミッション(need to reduce their emissions)、こう書いてある中の、 ゼアの中には日本は含まれるんじゃないんですか 。



 上記から、小沢大臣は一貫して、450ppm安定化を目指す場合は25%削減が科学(IPCC)の要請であると考えていることが分かる。おそらく2℃目標が科学の要請かどうかという点は念頭になかったのではないかと思う。しかし、この点こそが本件の核心である。

 それはともかく、日本の25%削減が科学の要請か否かという重要な点に関して、当時の首相と環境大臣の認識が異なっているのである。

>>後編に続く


山口光恒 氏山口光恒 氏 (やまぐち みつつね)
東京大学先端科学技術研究センター 特任教授 放送大学客員教授

1939年神奈川県生まれ。1962年慶應義塾大学経済学部卒業。同年東京海上火災保険入社、1999 年3月退社(役員待遇理事)。1996年から慶應義塾大学経済学部教授、帝京大学経済学部教授を経て、現在、東京大学先端科学技術研究センター特任教授、放送大学大学院客員教授。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第3作業部会リードオーサー、OECD貿易と環境合同専門家会議日本政府代表(外務省)、産業構造審議会地球環境小委員会委員(経済産業省)、総合資源エネルギー調査会基本問題小委員会委員(経済産業省)など多数の委員を務める。

主な著書は『現代のリスクと保険』(岩波書店)、『地球環境問題と企業』(岩波書店)、『環境マネジメント改訂版』(放送大学教育振興会)、『持続可能性の経済学』(共著・慶応大学出版会)など。

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