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タスクフォースの報告は、“願望の書”であってはならない

山口光恒 氏 (やまぐち みつつね)東京大学先端科学技術研究センター 特任教授 放送大学客員教授
前回の報告書の成立経緯から今回の報告書批判まで内部からの報告。


ここから引用:
山口光恒の『地球温暖化 日本の戦略』
良いとこ取りの環境大臣試案[前編]
http://eco.nikkeibp.co.jp/em/column/yamaguchi/74/index.shtml
「温室効果ガス25%削減の家計負担、専門家差し替え再試算──環境相『民主応援の人に』」

 との記事が掲載された。要は民主党の政策を取り入れた形での分析になっていない点が不満なので、これに理解を示す専門家に再度試算をしてもらうということである。

 この記事を見た時、筆者は一瞬わが目を疑った。まさか環境大臣がこんなことを言うはずはないと思ったからである。しかし調べてみると、新聞報道はほぼ大臣の発言をそのまま伝えたものであった。これを知った時の衝撃は、当分忘れることができないだろう。


ここから引用:

コラム
山口光恒の『地球温暖化 日本の戦略』
良いとこ取りの環境大臣試案[前編]
http://eco.nikkeibp.co.jp/em/column/yamaguchi/74/index.shtml

麻生政権における中期目標検討委員会

 3月31日、小沢鋭仁環境大臣は自身の試案として、「地球温暖化対策に係る中長期ロードマップの提案(以下、小沢試案)」を発表した。その内容は真水(国内対策のみ)で2020年までに1990年比25%、2050年までに80%削減を目標とし、その実現に向けた工程表を含むものである。昨年12月、環境省に「地球温暖化対策に係る中長期ロードマップ検討会(以下、環境省検討会あるいはロードマップ検討会)」を設置し、 5回の全体会議(およびそれを補完するワーキンググループ会合)を経て提示された3つの試算 (真水15%、20%、25%、このうち15%と20%は25%との差分を海外からのクレジット購入などで賄う)のうち最も厳しい真水25%を採用したものである。

 環境省検討会の結果およびそれに基づく小沢試案は、今後の日本の温暖化対策に大きな影響を及ぼすと思われるので、それに対する筆者なりの見方を示し、読者の参考に供するものである。

 最初に問題にしたいのは手続き面である。京都議定書後の中期目標の国内論議が本格的に始まったのは、 2008年の福田政権から麻生政権にかけてのことであった。

 2008年7月の低炭素社会行動計画において、「基準年の見直し等の論点を含め、来年のしかるべき時期に我が国の国別総量目標を発表する」ことが明記され、これを受けて、地球温暖化問題に関する懇談会(座長・奥田碩トヨタ自動車相談役、以下、懇談会)の下に、「中期目標検討委員会(座長・福井俊彦前日本銀行総裁、以下、福井委員会)」が設立された(事務局・内閣官房)。日本経済研究センター(日経センター)、国立環境研究所(国環研)、地球環境産業技術研究機構(RITE)、日本エネルギー経済研究所(エネ研)など、各研究機関のリーダーを中心とした同委員会は、2008年11月に初会合を開き、以後、翌年4月までに7回の会合を経て、2005年比マイナス4%(90年比プラス4%)からマイナス 30%(同マイナス25%)にいたる6つの選択肢に絞り込んだことは記憶に新たなところである。

 ここで特筆すべきは、経済分析は日経センター、慶應大の野村浩二准教授(慶應)、国環研の3機関による 4つのモデル(日経センターはマクロモデルを含む2種類のモデル)、技術面はRITE、国環研、そしてエネ研の3つのモデルを基に、選択肢ごとの経済的影響や必要となる技術とその実現可能性、諸外国との相対比較などの客観的データが明示されたことである。環境政策決定に際して、このような検討がなされたのは日本では初めてのケースであり、筆者はこの手続きを高く評価している。

 各選択肢については、パブリックコメントや首相出席の下での懇談会での論議を経て、麻生太郎首相(当時)が昨年6月10日に、2005年比15%削減との中期目標を発表した。これは非常に意欲的な目標であり、欧米の政府から何の批判も起こらなかったことは当然である。なお、福井委員会でも選択肢の一つとして90年比25%削減が提示されたが、麻生首相がこれを採用しなかったのは、経済への影響があまりに大きいこと、国際的に日本の削減割合が突出し、国際競争力上も問題であることなどが理由であった。



ここから引用:

歓迎されざる再計算結果

 2009年9月の民主党政権発足直後に、鳩山由紀夫首相は世界に向けて1990年比25%削減を宣言した。これを受けて同年10月、地球温暖化問題に関する閣僚委員会副大臣級検討チームの下に「タスクフォース」が設置され、約1カ月間で5回にわたる密度の濃い論議の末、11月24日に「中間とりまとめ」が提出された。

 ここでは、副大臣級検討チームからの依頼事項に応える形で、25%削減に向けて、真水10%、15%、 20%、25%の各ケースに応じた経済影響や技術選択、国際公平性などを検討し、さらに今後の方針としてマクロフレーム(主要産業の生産量など)の妥当性の検証、市場創出効果の分析などが示されている。

 タスクフォースのメンバーは、モデルの専門家とそれを評価する有識者から構成されているが(たまたま筆者もその一員であった)、モデル専門家は福井委員会と同じである。ここでは多様なモデルを用いることで、政策の各種影響を幅広く検討する姿勢が貫かれたのである。もう1点付言すると、福井委員会、タスクフォースとも公開され、内閣官房のウェブサイトには配付資料はもとより議事録も、ほぼ発言通り詳細に掲載されている。

 タスクフォースでの再計算結果は、後述の通り、国環研を除いては福井委員会の時の数値とほとんど変動がなかった(慶應モデルの数字は全く変化がなかった)。タスクフォースでは、マクロフレームの見直しや規制強化に伴って環境関連産業が成長産業となる可能性、反対に企業が海外に逃避するマイナス面などを総合的に検討する時間的余裕がなかったので、これはむしろ当然である(タスクフォースの最初の会合から1 週間で中間報告、中間とりまとめまで1カ月という時間的制約のなかでの作業であった)。

 とはいえ、これは対策実施による経済への影響に関して民主党の期待した内容とかけ離れていたこともあり、歓迎されていないことは、筆者を含むタスクフォースの委員にはひしひしと感じられた。タスクフォースによる中間とりまとめが、地球温暖化問題に関する閣僚委員会副大臣級検討チームに報告されたのが11月24日であったが、最終的に受理されたのは12月10日のことであった。



ここから引用:

わが目を疑う出来事

 タスクフォースの中間とりまとめ報告の翌日、11月25日の朝日新聞朝刊1面トップに

 「温室効果ガス25%削減の家計負担、専門家差し替え再試算──環境相『民主応援の人に』」

 との記事が掲載された。要は民主党の政策を取り入れた形での分析になっていない点が不満なので、これに理解を示す専門家に再度試算をしてもらうということである。

 この記事を見た時、筆者は一瞬わが目を疑った。まさか環境大臣がこんなことを言うはずはないと思ったからである。しかし調べてみると、新聞報道はほぼ大臣の発言をそのまま伝えたものであった。これを知った時の衝撃は、当分忘れることができないだろう。旧ソ連や中国の独裁政権時代のインテリゲンチャが真実を発言するのに、どのくらい勇気が必要であったかを急に身近に感じるようになった。大臣のこの発言は暴言である。こうした発言の後に別途、設置されるかもしれない委員会の委員として、もし学者が指名されたとしたら、その人は「御用学者」と見られるリスクを負うことになってしまうからである(このことは、この後設置された環境省検討会のメンバーがこれに相当するということではない点、誤解を防ぐ意味であらかじめ断っておく)。

 タスクフォースのメンバーとして筆者が何度も強調したことは、われわれは専門家としてこの会に参加しているのであって、25%削減に伴う経済・社会への影響や、必要とされる技術とその可能性、真水割合ごとに必要となるコストや国際衡平性などについて科学的・客観的立場で検討し、結果を意志決定者に伝えるのが使命である。この意味でわれわれの答申は、歴史の審判に耐えるものでなければならないという点である。委員の大半は、こうした態度で討議に臨んでおり、モデル計算についても政権が交代しようと、前提条件が同じであれば結果は同じという至極当たり前の結果となった。

 もう1点は、タスクフォースの報告は、“願望の書”であってはならないということである。25%削減をコストなしで実現できれば、もちろんこれにこしたことはないが、これはあくまで願望であり、われわれの使命はそれを達成することによるコストと実現可能性を客観的に意思決定者に示し、後の判断を政治家に託すことである。これはIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の役割と全く同じである。



ここから引用:

環境省検討会での4つの新しいモデル

 それはともかく、小沢環境大臣は前述の発言に沿って、環境省に中期目標を検討する「地球温暖化対策に係る中長期ロードマップ検討会」を設置し、昨年12月に非公開で会合を開いた(最後の2回が公開されたことは既述の通り)。

 アクセス可能な資料から見る限り、始めは国環研の技術および経済モデルだけで検討が進められたようであるが、最後の第5回全体会合で、大阪大学の伴金美教授による応用一般均衡(CGE)モデル(阪大モデル)の計算結果が公表され、さらに参考資料として、名古屋大学の藤川清史教授他のモデル(名大モデル)、東京大学松橋隆治教授他のモデル(東大モデル)の試算結果も示された。さらにその後の小沢試案には、日経センターによるマクロモデル分析の結果が引用されている。このように新たなモデルで25%削減を検証するのは、新たな視点の提供という意味で望ましいことである。特に阪大モデルは、従来のモデルとは異なる「Forward Looking型動学モデル」(詳細は中編で解説)を用いており、結果は、福井委員会やタスクフォースのどのモデルの計算結果とも大幅に異なっている点は注目に値する。

 環境省検討会で新たに提示された上記4つのモデルのうち、東大モデルおよび日経センターモデルは真水 25%削減とはなっておらず、名大モデルではマイナス要素を考慮していない。さらに阪大モデルも公表資料から見る限り真水25%には達していない(中編の解説参照)など整合性を欠くものである。この点は、環境省検討会全体会合第5回資料3「地球温暖化対策に係る中長期ロードマップ(議論のたたき台)(案)」(スライド68)および小沢試案(スライド28)でも「モデル間の整合性確保は今後の課題」とされており、さらなる詰めが期待される。

 ここで問題は、これまでの2つの検討会(福井委員会およびタスクフォース)で検討されなかった新たなモデルで、これまでと全く異なる結果が提示されたことをどのように評価するかということである。筆者の提案は、今回の環境省検討会の結果を既存のタスクフォースに戻し、当該モデルの専門家にもそのメンバーに加わってもらい、その場でそうした違いの原因、それぞれの前提条件の相違とその信頼性などを公開の場で徹底的に議論して、その結果を意志決定者に示すというものである。

 実際、タスクフォースでも有識者とモデル専門家間にとどまらず、モデル専門家の間でも相当突っ込んだ応酬があり、その結果、それぞれのモデルの特徴や場合によっては弱点などが明らかになった経緯がある。小沢試案も含め、まずは拡大タスクフォースで議論する ──これが手続き面で筆者の言いたいことである。

>>2010 年4月19日(月)公開の中編に続く


山口光恒 氏山口光恒 氏 (やまぐち みつつね)
東京大学先端科学技術研究センター 特任教授 放送大学客員教授

1939年神奈川県生まれ。1962年慶應義塾大学経済学部卒業。同年東京海上火災保険入社、1999 年3月退社(役員待遇理事)。1996年から慶應義塾大学経済学部教授、帝京大学経済学部教授を経て、現在、東京大学先端科学技術研究センター特任教授、放送大学大学院客員教授。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第3作業部会リードオーサー、OECD貿易と環境合同専門家会議日本政府代表(外務省)、産業構造審議会地球環境小委員会委員(経済産業省)、総合資源エネルギー調査会基本問題小委員会委員(経済産業省)など多数の委員を務める。

主な著書は『現代のリスクと保険』(岩波書店)、『地球環境問題と企業』(岩波書店)、『環境マネジメント改訂版』(放送大学教育振興会)、『持続可能性の経済学』(共著・慶応大学出版会)など。
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